ふわふわむにむに☆ 前編





魔王城、それは見るもおぞましい人類の天敵住まう悪しき城。

そこに住むのは血も涙もない残忍な者たち。

弱肉強食な世界である。

城内部の赤い絨毯はさらった人間の血で染められていると聞く、その犠牲者はもはや数え切れない。

庭には番犬のごとく人間を食らうマンイーターが瘴気を振り撒きながら動きまわる。

空にはガーゴイルが蠢いてこちらをつねに狙っているのだ。

常に闇に閉ざされた世界でやつらは我々、光りに満ち溢れた世界を欲している。

諸君ら人類の同胞よ、これは危機である。

やつらは我々と同じ生き物ですらない。

我らの世界に害を為す者たちなのだ。

そして我々にできることはやつらにこの世界を渡さないことすなわち勝つしかない。

それはすなわち我らの勝利、生きると言うことだ。

我々は今立ち上がろう!そしてここに宣言する我々光の民はけして闇の者たちに屈することはしないと!!



          シングラム国 初代国王 シングラム・ヘル・ムスト一世
















                「はぁー今日もいい天気だな」

魔王城にバイトをすることになって早いものでもう1か月。

さんさんと降り注ぐ空の下で今日も元気にお仕事をするオレはしがないバイト君。



でもオレはかの有名な場所にいる。

そうおとぎ話や本の話でもたびたび登場する場所、そして勇者に配られる勇者ガイドの1ページ目に書かれている



  “光の民の宣言”



の1文にも謳われているマンイーター蔓延る瘴気の庭。

で俺は地面に生えている草と格闘している。



・・・・・・そう草むしりだよ。

あまりにも広大な草原にも見える庭にげんなりしながらも1人黙々と抜いている。

時折息抜きに休むために木陰に行くと魔王城?と疑うほどの美しい花々が咲き乱れるあたり、勇者ガイドの信憑性が疑われる。

魔王を倒そうとした勇者一行の生き残りが話した城の内部とその余りにもおぞましい光景を書き留めた日記は人間が彼らを知る最初のアイテムだったそうだ。

勇者ガイドはそれに則って作成されたらしく、書かれているのと見るのではだいぶというか全然違う。

360度あたりを見回してもマンイーターという食人花はいない、ガーゴイルという石像の魔物もいない。



ついでにいうと空からは眩しいほどの光が降っている。

それは人間の世界でよくある風景で戸惑う。

確かに咲き乱れている花々は見たこともない種類がたくさんでその花達が歌っているところはさすが世界が違うなとは感じるけれどそれも女性視点ならばかわいい!!ってはしゃいで喜ぶだろうし。

さすがにこの間みた鳥については残念ながらマイナスだ、見た目は普通の鳥なのに裏を返すと人間のように手と足がついていた、もちろん5本指。

驚いて聞いてみると角が生えたり、尻尾が生えたり種類はさまざまらしい。

こちらでは普通のことだとか。



「それにしてもいつになったら終わるのか」

朝からずっと草をむしっているのに一向に終わる気配はない。

横に山のように積まれている草は今にも雪崩を起こしそう。

かれこれ4時間でできたのは精々全体の5%ほど。

たとえ1日続けても終わらない。

広すぎる庭にほとほと嫌気がさしてきたその時。

「よっ!進んでるかぁ?」

「うげえ!いでええええええええええええ!!」



背後から後頭部にむけて遠慮なしの一撃にその場に転げまわった。

「あぁ〜わりぃわりぃ つい?力加減間違ったわ。」

ガハハハとオヤジ臭く笑いながら謝ってくる獣系の魔物のカイさん。

「わりぃ〜じゃない!!本当危なく頭が無くなるかと思いましたよ!!」

あまりの痛みで潤む目でぎっと睨みつけるとさすがに悪いと思ったのか

「まぁそう怒るなよ、ほら昼飯。」

獣系特有のフサフサ耳をヘニャリと垂らしながら紙袋を俺の目の間に置いた。



「いつもすいません。」

城で料理人のカイさんは忙しい身の上にもかかわらず、わざわざ俺を探してご飯を持ってきてくれるいい魔物だ。

「別にいいって!」

改めてお礼をいうと照れているのか耳としっぽがピコピコ動く。

そんな姿に地味に癒しをもらえて、下がり気味だった気分は通常レベルまで落ち着いた。

カイさんはワーウルフという魔物でだからか鼻がいいから俺を見つけるのは簡単だと笑っていた。



「うわぁうまそう!!」

さっそく持ってきてくれたご飯を食べようと紙袋から中身を取り出すと作りたてなのかほのかに温かい焼きサンドイッチが出てきた。

大食らいの俺に配慮したのか特大サイズ。

顔ほどの大きなバンズにから見えるみずみずしい赤と緑のまだらな葉物がなんともグロテスク、真ん中の肉が豪快に厚切りに数枚挟まっていてとってもジューシー。

その肉にたっぷりとかかっているソースは紫色で全体的に見ると完全に毒キノコのコラボに見えるが



「うまっ!!」



いい加減こちらの食生活に慣れてきたのか見た目の奇抜さくらいではひるまなくなった。

そんなことでは何も食べることはできないし。

「そうか?」

「まじでうまいでふっ!!」

カイさんが届けてくれるまでは豆やジャムを塗ったパンしか食べたれなかったから肉が美味過ぎる。

「これ何の肉です?」

「あっ?人間の肉」



「ぐふっ!!!!」



「うぉ!悪い悪い、冗談だよ。」

ほらっこれ飲めと渡されたドリンクをひったくようにして奪い飲み干した。

「しっ死ぬかと思った!」

「っはははっはははあ!!!いい反応するな。」

せっかくの昼ごはん(ひさしぶりの肉)を吐きだすわけにもいかず目を白黒させていた俺の反応がよほどつぼに入ったのかしばらく横で笑い転げていた。

「カイさんっ!」

「悪い悪いっ!!」

笑い過ぎたせいで涙まで浮かべて謝ってくれるがいかんせん後半でいまだに笑っている所がダメだ。

なんでか知らないが必要以上に構ってくれるカイさんはどうやら俺をいじくるのが好きらしい。

優しいし、優しいし、優しいし、ご飯もくれるし、けどたまにこういうちょっとした悪戯を仕掛けてくるあたりまだ若い?らしい、顔は獣面だからわかりずらい。













ロレンのつぶやき
ジューシーな肉が食べたい・・・・・