「あ〜だりぃー」
アルデバランという町のはずれにひっそりとたたずむ家に住んでいる青年はいままでぬくぬくと温かい布団の中でまどろんでいたが仕事の進行具合をみるために仕方なく、机の上にある通信画面に身体を寄せた。
「っまた!全滅かよっ」
変わりゆく田舎道に派遣した冒険者たちが途中で全滅し、町に引き上げたとメールの情報ログに記載されていた。
「どうしよう、まずいだろ」
持ち帰ってきた戦利品の欄を見ても売り払ったとしてもごくわずかな金額にしかならない、到底あと20日あまりで借金の全額返済にはとても間に合わないだろう。
『返済できないそのときは・・・・・・・・宿屋で働いてもらいますから。』
元旦早々に家に勝手に上がり込み、働くことを強要した女主人との出会いからの初めて笑顔で返された言葉が甦る。
(死んでも働いてなるものかぁ!!)
机にうつぶせになりながら気合いをこめてみるものの、チラリと見る情報ログはなんの変化も見られず、借金は着実に俺の首を絞め続けている。
「・・・・・もういい寝よ」
早々に考えることを放棄して布団の中へと逃げるようにして眠りについた。
「・・・・ぁ・・?」
中途半端な時間に寝たせいか、変に目が覚めてしまった。
時間をみてみるとあれからたったの1時間しかたっていない。
「・・・・・・・・・」
(あぁ〜寝れねーし)
うだうだと何もせずに布団に横になりながら、暇なせいかミノ虫のように布団を身体に巻きつけたりとむだにだらだらと時間をつぶしていた。
ガッシャン!!
家の裏の方で何か大きい音がした。
引きこもり生活をして4年、両親なくして早3か月、家の裏には確かゴミの山しかないはず。
「もしや、泥棒か?」
田舎町でしかも人の出入りがほとんどみられない一軒家。
そんな家に金目のものが置いてあるのかはほとほと疑問だが、わざわざゴミ山を動かしたんだ用心するにこしたことはないだろう。
じっとまるまったままで固まって勝手口の方を見つめる。
5分たっても10分たっても変化がない。
「ゴミが倒れただけかぁ?」
泥棒にしろ、不審者にしろ全然そのあとの反応がない。
しかたなく、一応1人暮らしになった時に通販で買った“お母さんの手”を持ってゴミ山がある勝手口に向かった。
お母さんの手という商品名とはうってかわって、金属でできた1mの棒で先に手をモチーフにしたゴムがついている。
お母さんの手の様に多様化できるが売りで思わず衝動買いして、そのまま部屋の隅に放置してあったものをまさか防犯目的でつかうことになるとは思わなかった。
そろりそろりと忍び足で震えながら近づく。
長いこと引きこもり生活もしていると人に対する免疫はゼロで、半径1mに他人がいるというだけで身がすくむ。
ギリギリ1mのお母さんの手を使っても攻撃できるかどうか。
ならば
(ここは、向こうがこちらに気づく前にヤル!!)
殺さなければ正当防衛も認められるはず、自分を守るためなら半殺しも許されるはず。
(というか俺が許す)
勝手口について、ゆっくりと鍵を外して思いっきりドアを外に向けて開けた
「死ね〜〜!ひっ!!」
勢いよく開けたドアはごみの袋に阻まれ、バウンドしてこちらにさらに倍の速度でしまった。
「・・・・・・こわっ!!」
あわや、あと数センチであまり高くない俺の鼻がつぶれてなくなるところだった。
今度は恐る恐るゆっくりと扉を開けた。
「・・・うー誰かいます?」
やはり何かに突っかかっているようで数p開けた所で動かない。
しかたないので首を扉から出してみてみた。
「・・・・ヘルプミー、ポリース!!」
なにこの状態。
どうにかきついながらも首をひねってみた景色は夜9時によくやる、火サツに類似していた。
ゴミ袋の山に倒れている人は全身赤黒い液体で濡れており、遠目から見てもそれが血で、しかもあのしたたりようは絶対に殺されていると思う。
どうやらさきほどから開かない扉の理由はその人物が邪魔で開かなかったらしい。
さきほどからガンガン足に扉がぶつかっているのに反応がないからやはり、死んでいるのかもしれない。
オレ、第一発見者になりました。
まさか、引きこもっていたのにこんなディープなことに出くわすなんて。
人生なにがあるかわかないものだなと思いをはせていると唐突にあることがひらめいた。
「もしや脅迫か!?」
借金が払えなかったらこうなる運命ですよっとでもいいたいのだろうか。
そうなるとやはりダイイングメッセージは≪借金≫だろう。
扉から無理矢理上半身を出して手元を見るがそれらしい形式はなくがっかりした。
となるとやはり殺人か。
「・・・・ぁ・・」
「・・・・・・・・動いたよ」
微かなうめき声にぴくりと動いた腕。
死体じゃないことに安心して(殺人だったら幽霊でそうだし)家に戻りリリウムにメールを送った。
内容は ≪家の外に半分以上死んでるやつがいるから回収に来い≫
じぃーと画面をぼけっと眺めていると≪今忙しいのでそっちで処理してください、くわしい資料は送りますから≫という文面とやけにくわしいデーターが送られてきた。
「・・・・横暴だ」
最後に≪P.S もし行くまでにしなかったら利子をつけますので≫という脅しも含まれていた。
まったく俺に対して心配するとか一切ない優しさの欠片もない返答だった。
しばらくなんで俺がと呟いてからついてしかたなくデーターを読んだ。
とりあえず、死にかけの人物を回収しなければと〈お母さんの手〉オプション〈パワーハンド〉を装着し(重いものでもしっかりつかんで離しません)を握りしめ勝手口からどうにかこうにか家の中に引きづり入れることに成功した。
そのとき何が何でも家の中から外に出ないように工夫するのが大変だったがそこは「家から出てなるものかぁ」の精神で乗り越えた。
しかたなく家の中に入れたはいいがどうするかと頭をひねる。
もちろんこの後にすべきことは傷の確認など簡単な応急処置なんだろうが
「・・・うわぁー血みどろ」
家の中に入れるために使ったお母さんの手の先端がしっかりと赤黒く染まっていた。
自慢ではないが、血はそこまで苦手ではないがここまであると正直触りたくない。
「はぁ〜」
ため息をつきつつ、ほとんど使うことのないキッチンの収納棚を漁ること5分ブルーのビニール手袋を発見した。
「さてさて、どこから始めるか?」
メールに添付されてきたデーター通り、傷の確認のため来ているものをはぎ取っていく。
どうやら気づかなかったがどうやら男でしかも冒険者のようだ。
着ている装備品があまりにも貧相だったからかなり近くまで来ないと分かりづらくお湯でタオルを濡らしたもので拭いていくとふと近親感を覚えた。
「気のせいか?」
ゴシゴシと遠慮なく拭いていくとさらにわかったことがあり、頭から血まみれだったのはたしかにかぶったのもあったが髪の毛が赤いせいでもあったようだ。
「・・・・・うぁ・・」
時々上げるうめき声でびっくりするが意識はないようでぴくりとも動かずこちらのやりたい放題だ。
「うしっ!終わり」
傷があるときは消毒して、家にあった消費期限ぎりぎりのきず薬を塗りこんでおいた。
ビニール袋に服や装備品を詰め込んで固く縛って部屋の隅に置いておいた。
しかたなくはぎ取った服のかわりに俺のスエット上下を着せておいた。
「さすがにリリウムがくるのに、裸同然でほっとけないよな」
やることを終えて暇を持ちあまし始めた俺はしかたなくそいつを観察することにした。
「肌は白い・・・・髪は赤で俺より年下かな?」
ふむふむと頷きながら、近くに寄ってみる。
「おぉーまつ毛まで赤いや」
自分が黒いからあんまり自分とかけ離れた色が羨ましい。
「赤いのってそういえば見たことないな。」
へぇーいるもんだなすごいなー
んっ?あれ確か最近雇った冒険者の中にもいたような?
「こんなに年下だっけかぁ」
まじまじと顔を覗き込んでつんつんと頬を指で押してみる。
フルリと動いたまつ毛に「あっ目さましたか?」と思った瞬間。
ピルルルルルウルルッルウルルウルルウルッルルウルルルルウルウウルル!!
突然鳴り響いた機械音にびっくりしつつ、急いで音の出元を探した。
どうやらメールが届いたようで
≪今からそちらに向かいます、後自警団の人もくるので部屋は綺麗ですか?≫
と今からどうにもならないことをわざわざメールしてきた。
「綺麗になるわけねーだろ」
しかたなく返信しておいた。
≪無理≫
≪なら、いいですけが人でも見ていてください≫
(はいはい、わかりましたよ)
画面から離れて放置しておいた、男のもとに向かった。
「はっ?いない」
少し目を離したすきに転がしておいたはずの男が忽然と姿を消していた。
「ムクっ!」
「ぎゃぃ〜〜〜!!」
後ろからのドンとした衝撃に耐えきれずに床に転がった。
「ムク!ムク!ムク!」
「てめー離れろー!」
吹き飛ばすように抱きついてきた男に思わず肘鉄を食らわせた。
通信教育の身を守るために防衛をこの間習得したばかりでつい反射的に手が出てしまった。
手が震えるのを抑え込んでうずくまったそいつに恐る恐る近寄った。
「・・・・ム・・・ごめ・・・・。」
そういって今度こそ気絶をしたようで安心した。
バクバクなる心臓にどうにか深呼吸を繰り返して落ち着いたところでふと喉が渇いたので水でも飲もうと立ち上がろうとして服を引っ張られるので見て見るとしっかりと手で服をつかんであった。
「・・・・・・・・・・」
無言で離そうとすると
そいつの閉じられた目から一筋の涙が頬を伝って落ちた。
器用にも気絶しながら泣いているそいつになんとなくかわいそうになって、離そうとした手を下してすぐそばに座った。
どうにか届いたお母さんの手の血をふき取ってそれで慰めるように髪を撫でた。
(そういえばムクってなんだろう?)
「マツバさーん!どうなってます!!」
ノックもなにもなしにいきなり部屋に乗り込んできたリリウムに軽く睨むが
「ロードンさん!!ってなんだ以外にしっかりと手当してるじゃないですか」
関心関心とうなずきながら作業を確認したと思ったら
「それじゃ、引き取りますね、自警団長さんお願いします。」
その一言で外で待機していたであろう2〜3人が土足でタンカーを作り、さっさと運び去ってしまった。
「はぁ〜」
なにやらさっさと引き上げてくれたことはよかったが、お礼の言葉もなくこっちを不審者のごとく睨んでからリリウムを守るように去って行ったことは気に入らない。
きっとあの連中はリリウムに夢中なのだろうけど肝心のリリウムに気がないのはおもしろい。
「うしっ!風呂はいろーっと。」
「あっ装備品返すの忘れてたー!!」
と叫んでもなくなってくれるわけもなくしかたなくそのまま玄関に置いて風呂に入った。
風呂から出るとテーブルには出来立てのごはんが置いてありいつもならつかないメロン半分が異様な存在感があった。
「お礼のつもり?」
しばらく見ていたがお腹がすいたのでそれを食べて眠った。
ひさしぶりに動いたのが祟ったのか起きたのは12時を過ぎていた。
かなり寝坊をしたようで、冒険者達にメールを送るのをできなかった。
「もういいや、今日は休み休み」
ピンポーン
「おっ」
昼のご飯かな?といそいそと玄関を開けるとそこには。
昨日プチ死体になりかけた赤い子供。
どうにしていいか分からず、ドアを閉めようとするとどこかの訪問販売員のようにドアに体をねじ込んできた。
「なっ!」
驚いてドアから手を放すとそのまま強引に中に入ってきた。
「こんにちは、俺ロードンって言います。」
そういって足元に置いていたらしい、たぶん俺の昼ごはんをこっちに差し出しながらロードンはにっこりと人好きする笑顔でこちらを見つめてきた。
ロレンのつぶやき
ロードンはかわええよー
しかし日記に書いた通り「俺結婚します!」にはさすがにへこんだよ。
お母さんそんなこと許しませんよ!!って再スタートしたよ。
後で調べたらサリックスと一緒にすると起きるらしくて別の班にしたのでもうあのメールはきまい。