「おいぃ〜こら、いい加減にしやがれ!!」
そういいながら目の前に仁王立ちになり思いっきり机を叩いた。
そのため机の上の紙の山が勢いで雪崩を起こしてしまっている。
普通ならばその山に気がとられて遠慮しているところだがあまりにも頭に来ているのかそんなこともおかまいなしに机をたたきまくる。
しまいには机の上で納まっていた紙雪崩がついには磨き抜かれた床と上質なカーペットの上にまで浸食をし始めてしまった。
「なにをする、今までの仕事が無駄になるだろう。それだなお前が崩したのだから床に這いつくばりながらでもいいから直しておけよ。」
そういって目の前の男はこの大惨事に顔色一つ変えず、いや若干迷惑そうな顔をした。
が、結局崩れてしまった一番上の書類の一枚を手元に呼び寄せ目を通し始めてしまった。
「っいやだ!!そんなことよりも仕事だよ、仕事をやめろよ!いい加減っ!見てみろよほらっ!こんな時間だよ。」
未だにこちらをちらりとも見ない男の目と書類の間に無理やり時計を捩じ込んだ。
時計との距離が近すぎて見えずらいだろうがそんなことはこっちとしてはどうでも良いし、むしろ顔面にめり込ましてやりたいぐらいだがそこはぐっと我慢をする。
「あぁ2時になるな。」
邪魔だと視線でたしなめたれたがそこは引かずにさらにぐいぐいと机に乗る勢いで詰め寄った。
「そうだよもう2時だよ。普通はもうとっくに昼食って午後の仕事始めてるわけ、それなのに俺はまだいけねーの、分かるかそれはな・・・・・」



「俺はまだ飯を食ってないからだ!!!!!!」




と叫びながら目の前の書類奪い取り、自分の後ろに放り投げた。
(あぁ〜信じられねーよ!いくらデスクワークが中心だとしても腹がすかな過ぎるだろうが、それがどうだ俺が知る限り8時間以内にはお菓子の一欠けらすら食べているのをみたことがないし)
「食いにいけばいいだろうが」
あきれたという表情に1人でも飯も食えんのかとバカにした瞳でちらりとこちらを見た、がすぐに視線を外された。
「だからっておい!無駄だからな」
先ほどから奪った書類を呼び寄せようとしているのを無視していたが足元のがバサバサとうるさい。
重要なものなのは紙の質をみれば一目瞭然なのだがいかんせん後ろに放り投げたものが横でじりじりと歩腹前進しているのを見たら、思わず足で上から踏んでしまった。
「人質がいるんだ、大人しく諦めろ。聞くまでこいつは開放しないぞ。」
睨みつつそう高らかに宣言する。
「・・・・・さっさと話せ。」
ふぅーとしかたないなと両手の指先を口元で組んでそこにあごを乗せた。
(なんかすごく偉そう&仕事ができそうな姿勢だ。)
まぁそうでも仕事モードを解いただけでも最初とは違ってかなり進歩したようだけれども
「むぅうー、イシスさんの命令であんたと一緒じゃないとダメなんだよ。」
ここに来る前に何度となく食道にいってはみたけれど、さすがにしっかりとそのことを伝えていたらしく門前払いをくらってここにきたわけで。
「俺だって1人で食えるなら食うよ、けどダメだって言うし、そうしたらもうあんたと行くしかないだろうが、別に仕事の邪魔をしたかったわけじゃないよ。」
たしかに書類を崩したのは悪かったからかたずけるけど。
今こうして詰め寄っているのもかなり体力を削っていてそこら辺に座り込みたいほどだけれどそんなことでは一生食べることはかなわないだろう。
(なぁいくらなんだってそれくらいの時間くらいはいいだろう。)
「・・はぁーやっぱりお忘れでしたか。」
キィーという音を立てて入ってきた人物は開口一番ため息をついた。
青い髪がアシンメトリーに切ってありインテリ眼鏡がよく似合っている。
「イシス初めて聞いたぞ。」
「私はなんどとなくお伝えしたのですが。」
そういいながらどこともなく取り出した紙の山をまだ雪崩を起こしていない場所に置いた。
「それにいつまで踏んでいるつもりなのですか、その紙代も加算しますからね。」
「うー、そんな。」
急いで蠢いていた紙を足からどかして目の前に差し出した。
「まったくどれほど増やす気なのか、減らす気があるのですか?」
受け取った書類を手で叩きながたこちらを非難してきた。
「・・・・・・すいません。」
確かに踏んだのも悪いし、一行に減る気配のないそれには重々オレとしても心ぐるしいものがあったのでとりあえずあやまってみた。
「まったくだ。」
「エスト様もですよ、なんで忘れるのですか、あなた様がおきめになられたことですよ。」
「いや、もうそろそろ行くつもりだったぞ。」
「嘘だー!もうそろそろって朝飯すら食べられなかったぞ。」
もうあれだ!飴をくれるという人が現れたらどんな怪しいやつでもついていける自信があるくらいにお腹のすき具合と理性がやばい。
「本当みたいですね、報告が一切受けていませんしさっさとアカツキとご飯を食べて死なせないでください。それとそれまでは一切の仕事を禁止いたしますから。」
「イシスさん!!」
さすが上司はだめでも部下はなんという気配りというか優しさに満ち溢れているのだろうか。
これで女の人だったら良かったな。
黙っていると美形だし。
「いいですかでないと3000万ネドを踏み倒されますから、その場合はエスト様に請求いたしますからね。
せめて餓死させるならそれを返済させてかつその倍以上の利益を起こさせてから殺すのは鉄則でしょう。なんのために生かしているのかもう一度認識してください。」
「うわぁん!!味方がいないというか俺殺されるのはほぼ決定事項!!」
しかも最後まで迷いもなくノンブレスで言いきった。
「いるわけなかろうが、おっ!東は治安が良くなったようだな。」
「あんたはいい加減に仕事をやめんかぁ〜」
今までの俺の苦労が一切発揮されず、またもや仕事を開始し始めてしまった。
「アカツキ言葉遣い」
イシスさんは顔は笑っているが目が一切笑っていない。
「・・・・・はい、仕事を中断しろ・・・して頂けませんか?」
「もう少し。」
「エスト様は私を怒らせたいようですね。」
うわぁ隣からブリザードのような冷たい冷気が!!
「はぁー分かったからそう睨むな。」
さすがに冷たい視線でじっとりと見られて、居心地が悪かったのか早々に白旗を上げた。
ぐぎゅるるる〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!
ようやく食べられると分かったのか胃が壮大な音かつ長く鳴った。
「・・・・・・・すいません、俺の腹です。」
キョトンとした顔で周りを見回す2人に羞恥心で一杯になりながらもそう告げた。
「脆弱ですね、2食抜いたくらいで」
「いや〜誰かさんのせいで昨日の昼と夜で計4食抜きなんで」
本当にもう倒れそうでしかたないんですよと笑うしかないのは借金があるせいなのか後ろからの無言の圧力がかかっているからなのかとりあえず耐えるしかないこの劣悪な職場に胃に穴が開きそう。
お腹の空き過ぎでね!!
「はぁーそれにしてもなんで丸二日も食べてないのに元気なんです?」
「それはエスト様だけですよ、もともと偏食な方ですし滅多に食事も食べられませんよ。」
「それは違うぞ、食べてはいるが物を咀嚼する必要性がないだろう現にこれで1週間は持つしな。」
そういって彼がこちらに手を伸ばし首に触れた瞬間に
「っぁ!!」
急に目の前が真っ暗になり、倒れ込んでしまった。
「もう何していますか、いくら食事をなさるのが面倒だからといってアカツキから取らなくてもいいでしょう。」
「実践したほうが早いだろう。」
「それでもただでさえ生気が薄くなっているのにさらに奪うなんて。」
「少しのはずだが?」
「ですからそれすらも多かったみたいですよ。」
「・・・ちょ・・と死にそ・・・う。」
この感覚には覚えがあるがここまできついのを食らったのは初めてだ。
“エナジードレイン”文字通り相手の生気を奪い取り自分のものとする魔法だが
(さすがに桁違いに持っていかれた!!)
予備動作や唱えるもなくただ触れただけでこのありさま。
今のこの状況だと立ち上がることすら出来ない。
(正直考えることも億劫になってきた。)
「あっ・・・う・・く!」
(まずいこのままだと瀕死になる!!)
なんどとなく体験したことはあるが瀕死事態はそんなに悪いことではない内に入る。
瀕死になったらそれらを回復すればいいわけでアイテムや町での休養、賢者クラスの魔法使いがいればいいわけだ。
が、今それになるということは“死亡”を意味する。
今倒れ込んでいる俺の上で話している2人には回復など望めないことが分かっているからだ。
(つーか絶対にムリ!!だってこの2人は・・・・・)

世界に有名な<魔王とその臣下>なのだから。


    一応勇者であったオレは敵なのだからそれを助けるわけがない!!


瀕死なオレ+魔王・臣下=死亡


「嫌だー!!」
身体に残る力を振り絞ってほふく前進をする。
(死んでたまるか〜!!せめてパンの一欠けらでもあれば!)
んぎぎぎぃ!とうなりながら進む姿は赤い絨毯と相まってゾンビの出現の仕方とよく似ていてとっても気味が悪い
「エスト様、ついにゾンビになりましたよ。」
人間って死ななくてもゾンビになるんですねぇと感心した声をバックに生きるために這う。
「おい、人間ここで死ぬな邪魔だからな。」
「うぬぬぬぬうううぃ!!」
(いやだーーせめてせめて夢が叶うまでは死ねない!!)
魔王に殺されたとかならまだましだが、魔王にこき使われて餓死した勇者って村の皆にどんな顔向けをしたらいいんだ!!
笑いにもなりはしないよ!
「ほらせめて生ごみ捨て場まで連れてってやろう。」
執務室にゾンビがうろつかれていては仕事にならん。
ほらとついと手をのばされたものだから手の白さと爪の黒さから
(あっねり飴!!)
普段ならぜっったいに思わない勘違いというかあの時は本当に一杯一杯だった。
差しのべられた手を自分の元に引き寄せる


(いいにおい・・・)
「んっ!」
逃げようとするそれを両手でガッチリと固定して舌をのばして舐めてみた。
(あまいっ!!)
ほのかに立ち上がる花のような香りにくらくらする。
その香りと口の中に広がる甘さに指の先端を舐めていたがもっともっとと頭のどこかで聞こえる声に手の平までなめあげていった。
「・はっ・・ふあん・・・ちゅ・・」
節だった指を口に含みつつ舌で舐めあげれば、舌から逃げるように指が折り曲げられた。
「・・・んっ・・・」
それを逃がさないように指に舌を絡めて唾液と混ざり合い甘露のようなそれを指に吸い付きながら飲み込んだ。
「っごほっ!!かはっ!」
うまく飲み込めなかった唾液が口からツゥーと零れたけれどそれを拭うこともせず、噎せたことにより目尻に涙を浮かべながらそれでも一心不乱に舐めあげていた。
「もっと・・・」
もっともっとこの甘さが欲しい!だからもっとちょうだい?
「アカツキっ!!」
「ぐふっうま!!」
突然呼ばれたと思ったら口の中にジュウシーな味が広がった。
噛みきれないそれは
「ハム一本丸かじりをするか?」
さっきまでうっとりとした顔で手を舐めていた人物とは思えない。
フランスパン程の大きさのハムを両手で抱えながらガツガツと貪り食べていた。
「ふぅー危ないところでした。はっ!」
そういいながら食糧が一杯入った籠からリンゴを取り、投げつけた。
ハムを食べ終えたアカツキがまたもや魔王にじりじりと近づいていたのを察知したイシスが離れるように遠くに投げつける。
「りんごー!!」
アクロバティクな動きを見せてリンゴを受取り、皮すらも剥かずものの数秒で跡形もなくなる。
食べ終わると魔王ににじりより、それを見た副官が勇者に餌を犬にやる要領で遠くに投げると言うカオスっぷりがのちに10分ほど続いた。













そんなこんなでどうしてかまだ生きています。
「おい人間。」
呼ばれて言ってみると合間に食べるようにと言われていたスコーンが机の中央に鎮座していた。
「全部食べてくださいよ。」
結局あのあと食べるだけ食べて爆睡したらしい俺は食事係を解任されたけれど、他の仕事の合間になぜだか魔王の監視役をすることになった。
「食べているだろうが。」
「・・・・めずらしい。」
よく見ると、確かに半分ほど食べた痕があった。
「そのつもりだが、汚れた。」
そういって手を見せてきた。
スコーンに掛っていた白いジャムが指の第二関節までべっとりと張り付いていた。
「フォークで食べれば良かったじゃないすか。」
「それでは仕事にならんだろう。」
「いやいや汚れたほうが面倒でしょう。」
ジャムがかかっているのだから汚れずに食べるのはなかなか難しいし、どうしても机の上にスコーンの屑が落ちてしまうからフォークが添えてあったのにそれをわざわざ手で豪快に食べるとは。
「いや特には?」
我は優しいからなお前の分も用意させたぞと汚れていない手でトレイに乗せたもう一つを差し出してくれた。
「んーおやつ食べれるのはうれしいですけど、そういば俺の仕事って?」
ふむっ!やすがにうまい。
国の偉い人が口にするものだ。
お菓子一つでも高級なのがよく分かる、このおやつもしっかりと借金に加算されているようだけれども、そもそも監視ってなにするものなんだろう?
くわしいことはエスト様に聞いて下さいとイシスさんがなぜか渋い顔で言っていたのが気になる。
「舐めとれ。」
「・・・・・・・・・セクハラ?」
ごちそうさまでしたと一応お礼を言った途端のこの発言におもわず固まる。
「失礼なやつだなセクハラならもっとましなやつにする。」
確かにここで働く魔族の方々は容姿がなぜかいい、人間のほうも城勤めは顔で採用らしいから不思議でもなんでもないのだけれど俺は勇者なのに美形でもないしな。
「ですよねーはい、手拭き。」
「・・・さっさと舐めとれ。」
「えっなに早くも職場いじめなわけ!!」
なにが悲しゅうて同じ男の手をなめなきゃいけないわけ?
「なにが職場いじめなのだ、おまえら人間は敬愛するものに手にキスをするのだろう、ということは舐めとるも同意語だろう。」
「いやいや違うから。」
「ふむ照れなくれもいいぞ、我は心広いからな勇者だとしても門番の仕事くらいと与えてやろう。」
「勇者だからね!魔王に敬愛って意味が分からないよなにその間違った情報!!」
というか魔王だよね目の前の人!!
そしてなにやら誤解をはらんだまま俺はバイトに明け暮れなければならない日々を送るようになったのでした。






 俺からの一言
  “バイトは選びましょう“
    選ぶ余地があればだけれど